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にいさんめをさまして

2013.05.21 12:43|文章
たまにはこっちのブログにも文章を投下してみようかな、などと思いました。
去年の十一月下旬に書いていた謎の話が発掘されたので。


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あくびを噛み殺しながら襖を引くと、背の高い人物が道を塞いでいた。
少女は、きょとんとした顔で目の前の青年を振り仰ぐ。
青緑の二対の目が、それぞれ違った温度を宿して交わった。
「……シャー兄?」
「シャンテ……」
いつもの能天気さはどこへやら、兄は眉を下げ、口をへの字に結んでいる。
握りしめられた拳が少し震えていた。
異変を悟ったシャンテは自分からは働きかけず、言葉の続きが発せられるのをじっと待った。
たっぷりと間を置いてから、メイショウは左手で顔を覆い、俯く。
「俺は今、とっても傷心なんや……」
声の調子もどっぷりと沈んでいる。
シャンテは正直言って面倒くさいと思ったが、一応話を聞くだけの体勢は取ることにした。
その辺りから適当に座布団を取って床に置き、座るように促す。
彼は力ない足取りで部屋に入ると、ぽすんと正座した。
その正面にシャンテが座る。
「……シャー兄、何かしたの?」
ゆっくりと首が横に振られる。
「じゃあ、何かされたの?」
逆の質問をすると、何の反応も返してこなかった。
あの兄が人の問いかけに無反応だとは。
そのまま項垂れてしまったので、何だかこちらががみがみと叱り散らしているかのようだ。
原因によっては、そうなるかもしれないが。
一つ溜息をついて、その場にあったお茶を彼の前に置く。
マスターから仕事のご褒美だと言って譲り受けた茶葉を淹れて作ったものだ。
「傷心って言われても、それだけじゃよくわからないよ。とりあえず、お茶でも飲んで落ちついたら?」
メイショウは顔を上げずに茶を少しだけ飲み、すぐ床へ戻した。
マスターの茶葉なら彼は気付いて言及してくるかと思ったが、どうやら事態は深刻だ。
「……シャンテ、俺……負けた」
床に向かってぼそりと呟かれたその言葉に、首を傾げる。
「負けた? 負けたって、何に?」
「最初は遊びのつもりで……でも、やってる内にムキになって……」
的外れな彼の言葉はだんだん先細りになっていき、聞き取れないほどになってしまった。
まるでほの暗い賭け事にでも手を出したとでも言わんばかりの陰鬱な空気に、少なからず衝撃を受けた。
兄に限ってそんなことはないと否定したいが、どう変わるのか解ったもんじゃないのが人間である。
正確に言えば人間ではないが言葉のあやである。
「……ね、ねえ、事情はよくわからないけど、私が出来る範囲なら手伝うよ……?」
「シャンテ!」
「な、なにっ!?」
突然の大声に飛び上がるほど驚く。
メイショウは、シャンテの両手を自分のそれでしっかりと掴んでいた。
一目見てわかるくらい必死な表情をしている。
「頼れる男の人って好き!?」
「えっ……ま、まあ、好きだよ」
「背の高い人は!?」
「う……うん、私より高い人がいい、かな……」
「子持ちでも!?」
「こ、子持ち!? ちょっとそれは、色々複雑になっちゃうから考えるかも……」
怒涛のごとき質問攻めに身を引きながら一応答えてやると、メイショウは首を大きく横に振って嘆いた。
「やっぱり無理……! こんなにかわええ妹を嫁に出すなんて!」
「は?」
思わず低い声が出てしまった。
何の冗談を言っているのかと思いきり睨みつける。
「……どん暗かったのはそんな理由?」
だが手を握りしめてくる彼は、どこまでも真剣な目をしていた。
「君を守るためなら俺はシーちゃんとだって戦う……!」
「何なの!? なんでお父さんが出てくるの!? いや例えとしてはわかるけど!」
「だってあの人オレが勝ったらシャンテをうちにもらうとか言い出すんやもん!」
「え」
どうしてそうなった。
話の流れが掴めず硬直すると、メイショウは早口に説明した。
曰く、メイショウが持ちかけた正座我慢比べ競争なるもので敗北を喫した。
自信満々だった彼は、勝った方が負けた方の言うことを何でも聞くというとんでもない提案をしたそうだが――弁解の余地もなく、見事な自滅だ。
そもそも、挑んだ相手が悪すぎる。
「ううっ、シーちゃんに一つでも勝てる物があると思った俺が間違いやったんや……あの人の身体の作りどうなっとるんやろ……」
「自業自得だよ! もう、いつもは呆れるくらい平和主義なのにどうしてそう変なところで熱くなるの……」
「な、なんか、気分が乗ってもうて……でもやっぱ嫁は無理やって……!」
「どうして嫁なの!? お父さんは『もらう』としか言ってないでしょ! もっと他にあるじゃない娘とか居候とか! 嫁は色々と駄目だってば!」
「はっ、そういえばシャンテ何でお父さん呼びなん!? まさか前からフュゼネアさん家の娘になる算段を」
「ちっ……ちがーう! 大体、そんなの冗談に決まってるでしょ! 正直に信じちゃって馬鹿じゃないの!」
「ばっ、ばか!?」
メイショウが目を見開く。
しまったと後悔したが、出てしまったものは引き戻せない。
「う、うわーんシャンテに嫌われた! シーちゃんの阿呆ー! 今度こそ勝ってシャンテの気持ちを取り戻してやるー!」
「ち、ちょっとー!?」
普段はへらへらと笑って軽く受け流すくせに、今に限って真に受けると来たものだ。
彼は立ち上がって襖を勢いよく開け放つと、そのまま外に出て行ってしまった。
……どうしよう。
一人残された妹は、兄を止めようと伸ばした腕を戻すことができなかった。

「それで、あの、シャー兄が変に息まいてしまって……本当にすみません、どうか気を付けてください……」
偶然出くわした、メイショウの混乱の原因となったらしい青年に、シャンテは深々と頭を下げた。
彼は、長らく下がっていた頭が上がる頃まで待って、相変わらずのしかめ面で自らの髪を乱した。
「……まあ、こっちで撒いた種やしな」
語調は表情と違って穏やかだったため、怒ってはいないらしかった。
「ところで、どうしてあんなことを仰ったんですか……?」
冗談、だとは思うのだが、まさか眼前の威圧感溢れる青年がそんな俗っぽい言葉を放つとは思っていなかった。
おずおずとその顔を見上げて訪ねると、彼は心持ち空色の目を伏せた。
「あいつがどれだけ妹馬鹿なのかと思ってな」
そしてふと遠くを見た彼を見て、彼にとっても予想外の反応だったのだと理解した。
ああ、この人にも読み違いなどということがあるのだと、変なところで安堵する。
完璧な人間の傍にいると心が狭くなったり、変に落ちつかなくなったりするのはきっと自分だけではないだろう。
少し気が弛んだものの、他ならぬ彼の目の前だからと背筋を頑張って伸ばす。
「きっとご存知でしょうけど、あの人は流すのが上手いように見えて、変なところで真に受けちゃうんです。特に、私関連のこととか……あと、ああなったらなかなか止まりません」
「解った。オレが何とかする」
青年は、二つ返事で頷いた。
懇願されてもなかなか動こうとしない印象のある人物だが、今回ばかりは責任を感じているのだろう。
「……あの、普段に増して鬱陶しい感じだとは思うんですけど、できれば手加減を、していただけると……」
シャンテのだんだんと縮こまる背を、彼は任せろと言わんばかりに叩いた。
何やら笑うような息が吐き出されたのは、聞き間違いだっただろうか。

それから数日後、青ざめたメイショウに「俺、シーちゃんに勝ったんやけど……ど、どういうことなん……俺ってまさか、めちゃめちゃ強かったんか……?」などと『俺強すぎて怖い』相談を持ちかけられたことは記憶に新しい。


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これは去年の11/23、つまり「いい兄さんの日」に向けて書き連ねていたのですが…
どう考えてもいい兄さんじゃない!となりお蔵入りとなっておりました。
この話は、こちらにある三枚目の絵を元ネタとしております。
すごく、馬鹿ですね…
…あ、ちなみにシャンテはユウシのことを「お父さん」と呼びます。友達のお父さんに対する感じで。

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